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美術館の在り方にも注目したい「ボストン美術館の至宝展」

美術館の在り方にも注目したい「ボストン美術館の至宝展」

『ボストン美術館の至宝展 東西の名品、珠玉のコレクション』神戸市立博物館で開催中です。神戸市立博物館は、お洒落な旧居留地に位置し、お出かけになられた方もいらっしゃることでしょう。

南北戦争(1861年-1865年)から立ち直りつつ あったアメリカボストンで1860年代後半から美術館創設の機運が高まり、美術館建設資金を募るキャンペーンを展開して、1876年7月4日アメリカ合衆国の独立100周年記念日にボストン美術館は開館しました。

ボストン美術館は、これまで国や州など公的財源から作品収集のための資金援助を受けていない50万点も有するコレクションは、「何世代にもわたる寄贈者とコレクターたち個々人による、類い稀なる慈善活動のおかげだった」と紹介され、特筆すべきことと考えます。今回の展覧会はそのようなコレクターを紹介する展覧会ともなっています。

名古屋ボストン美術館初代館長小倉忠夫氏の説明によれば「ボストン美術館のコレクションは、地球上の主な文化圏を網羅すると同時に、先史美術から最先端のモダン・アートまで5500年に及ぶ人類の歴史をカバーする大コレクションである」とし、多種多様なコレクションを「百科事典的」と紹介されています。また、日本美術部門は質量ともに海外では最高のコレクションのため、その所蔵品を目にする機会や「ボストン美術館からの里帰り展」と称する展覧会も多く開催されてきました。

今回展覧会は、古代エジプト美術から村上隆までふり幅広い内容となっています。

しかし、見所はやはり中国美術、日本美術と印象派作品ではないでしょうか。

1章 古代エジプト美術 では、1905年から始まったハーバード大学とボストン美術館によるエジプトと北スーダンにおける40年間の共同発掘調査の成果が展示されています。

2章 中国美術 北宋の皇帝徽宗南宋院体山水画を代表する馬遠、夏珪と並び、秋に京都国立博物館で開催された『国宝展』に並んでいても不思議でない名前が並びます。

周季常《施財貧者図》《観舎利光図》(五百羅漢図のうち) 南宋、淳熙5年(1178年)頃 絹本着色

は、五百羅漢を描いた全100幅の連作の一部です。もとは京都・大徳寺にあったものだそうで、13世紀に中国の寧波を訪れた日本人が全幅を入手して大徳寺に収めたそうです。ところが、廃仏毀釈の影響なのか明治27(1894年)、寺院の修復資金を募るため大徳寺は44幅を展覧会用にボストン美術館へ貸出、その後5幅を美術館へ、5幅をコレクターへ売却したという来歴を背負った羅漢様たちです。

インパクトある異様な羅漢像にボストンの美術愛好家たちはとても驚いたようです。



陳容 《九龍図巻》(部分) 宋、淳祐4年(1244年) 一巻、紙本墨画淡彩

9体の龍を描き分けた作品で、作者陳容は、「精神が高揚した酩酊状態で描いた」と書いているそうで、変化する龍を追って空の雲も海の水も荒れ狂い、山から躍り出る正面向きの龍はちょっとばかり怪獣映画の様です。清朝の乾隆帝旧蔵の画巻です。昨年の春、クリスティーズに出された大阪・藤田美術館の中国美術31点の中にも乾隆帝 旧蔵の陳容《六龍図》も含まれ、落札価格は約56億円だったとか。乾隆帝お気に入りの 陳容の龍図の人気を物語っています。

3章 日本美術 そうです、明治のお抱え外国人が廃仏毀釈の嵐が吹き荒れた後、岡倉天心と共に日本を旅し、美術品を持ち帰ったものがここに展示されています。その一方では、日本の財界人が日本美術の海外への流出を食い止めようとしていました。お抱え外国人の給料は非常に高額だったそうです。私たちが知っているフェノロサだけではありません。大森貝塚発見で有名なエドワード・シルベスター・モース 、日本陶器コレクターとなり、30年以上ボストン美術館の日本陶器の管理者を務めたそうです。医師であったウイリアム・スタージス・ビゲローは、すっかり日本の虜となり、仏教の研究と仏僧としての修行も積んだと伝えられています。ボストン美術館へは5万点以上の作品を寄贈しました。彼の遺骨の半分は琵琶湖畔のフェノロサの墓の傍らに埋葬されたそうです。奇想中の奇想の絵師No.1曾我蕭白に衝撃を受けフェノロサと共にせっせと集めていたそうです。2012年に開催された『日本美術の至宝展』では、巨大な《雲竜図》が話題になりました。曾我蕭白《風仙図屏風》宝暦 14年/明和元年(1764年)頃 六曲一隻 紙本墨画 が再来日しています。迫力とユーモア、大胆と繊細が同居する蕭白ならではの屏風です。伝統的な日本絵画を好んだフェノロサも蕭白の「奇」に惹かれたのか?フェノロサコレクションです。

英一蝶《涅槃図》正徳3年(1713年) 1幅、紙本着色

ボストンでも過去に1度しか展示されたことがない 釈迦の入滅を描いた大きな涅槃図です。1年の解体修理を経て公開となった作品で、海を渡ってからは初公開、修理後初公開です。大きさと鮮やかな色にたちつくす。英一蝶の描く作品は、柔らかい風俗画のイメージでした。英一蝶は、狩野派も学んで腕は確かです。根っからの遊び好き?吉原で幇間(太鼓持ち)をしながら絵を描いていたそうです。お大名に吉原でたくさんのお金を使わせたのか、島流しになりましたが、その間にも頼まれて多くの絵を描いていました。赦免で江戸に戻って、父を亡くした人からの注文でこの涅槃図を描いたそうです。釈迦の死を嘆き悲しむ菩薩、羅漢、動物から迦陵頻伽や昆虫まで描かれています。動物は親子や番で描かれ、向かって左下の方にいるジャコウネコだけがじっとこちらを見つめています。単眼鏡がなければ高くて表情まではよく見えないけれど、釈迦の弟子の一人阿那律に連れられ釈迦を迎えに来た摩耶夫人に仕える女性たちはふっくらと色白です。フェノロサが持ち帰り、1911年にボストン美術館の所蔵となった作品です。「国宝級」の海外流出というけれど、廃仏毀釈や戦争、自然災害とそのまま日本にあったなら廃寺の運命と共に行方知れずとなっていたかもしれない。ボストンで大事に保管されこのように里帰りでき、私たちも修復された鮮やかな姿を目にすることができたことに感謝です。20164月に修理作業を非公開で開始しましたが、20168月から20175月までの修理の工程は「保存修理の取り組み-涅槃図を守る」と題した展覧会形式で一般来館者に公開されたそうで、来館者にとってはラッキーですが、かなり思い切った企画に驚きです。

フェノロサと岡倉天心が明治期の日本美術界に果たした役割も大きい。ストン美術館中国・日本美術部長に就任した岡倉天心ですが、今回はコレクションに貢献したボストニアンの紹介がメインですので、天心についてはほとんど言及されていません。展示されている歌麿《三味線を弾く美人図》も結った髪の透け感も美しい肉筆でおすすめです。

4章 フランス絵画 今回の展覧会では、モネの作品が充実しています。モネの作品がボストン美術館の所蔵となった時期は、モネは同時代の画家だったのです。ボストン美術館は、アメリカの美術館で初めてモネを所蔵し、1911年には初めてモネの個展を開催しました。ボストン美術館に西洋美術担当の学芸員が任用されたのは1910年です。ちょうど天心が中国・日本美術部長に就任した年です。19世紀後半のボストンではすでにバルビゾン派作品が評価され、また自然重視の潮流があったことがモネが好まれた背景にあるようです。展覧会ではバルビゾン派のミレーやコローの作品も展示されています。2014年「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展」@京都市美術館の呼び物だった《ラ・ジャポネーズも含め油彩だけでも35点も所蔵し、そのほとんどがコレクターやその財団の寄贈・遺贈によるものだそうです。日本人が大好きな印象派の作品の所蔵が多いということも日本でボストン美術館の所蔵品によくお目にかかる理由の様です。

左から:フィンセント・ファン・ゴッホ 《郵便配達人ジョゼフ・ルーラン》1888年/《子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人》1889年

もう1つの今回の展覧会の呼び物であるゴッホのルーラン夫妻を描いた作品、それぞれ来日したことがある作品ですが、二人そろっての来日は初めてだそうです。ゴッホが、画家仲間と暮らそうと移り住んだアルルで、気難しいゴッホを支えた夫妻で、ルーランの家族をモデルにしてゴッホは多くの肖像画を描いています。夫のジョゼフの肖像は9か月の間に6点を描き、今回の作品はその初期のもので、後に描かれたものはこの作品をもとに描いています。椅子に座ったジョゼフを捉えようと描かれていますが、この後の作品は正面上半身だけで手や足が描かれたものはありません。背景も後半の3点は夫人肖像画の背景の様に花柄が配され装飾的になっています。ゆりかごを揺らす妻オーギュスティーヌの肖像も5点描いています。今回展示されている作品は、かの耳切事件の後に描かれた作品です。夫妻の手の表現と妻オーギュスティーヌの背景が気になる作品です。妻オーギュスティーヌの肖像は、浮世絵コレクションで有名なジョン・テイラー・スポルディングから遺贈された作品です。
左から:ピエール=オーギュスト・ルノワール《陶製ポットに生けられた花》1869年頃/アンリ・ファンタン=ラトゥール《卓上の花と果物》1865年

6000点以上も浮世絵を所蔵していたスポルディングですが、「静物画」もお好きだったようで、印象派の画家など「静物画」とくに生けられた花やテーブルの果物など彼のコレクションの静物画がずらりと並びます。自然に咲く花でなく、生けられた花の作品がお好みだったのでしょうか。

5章 アメリカ絵画 美術館を支えたボストンの上流階級から注文を受けて描いたサージェントフィスク・ウォレン夫人と娘レイチェル》二人が着ているサテンのドレスの色と艶、質感表現が美しい。大好きなオキーフの花はやはりどこや妖しさを秘めています。もっともっと見たいオキーフです。左から:ジョン・シンガー・サージェント《ロベール・ド・セヴリュー》1879年/《フィスク・ウォレン夫人(グレッチェン・オズグッド)と娘レイチェル》1903年


6章 版画・写真 都会の孤独を感じるホッパーの油彩ですが、ホッパーは版画家としても有名だったようで、エッチングの作品が展示されています。

7章 現代美術 日本にもファンが多いウォーホル・《ジャッキー》60年代のアメリカを象徴する人物かもしれません。日本の現代作家からは村上隆If the Double Helix Wakes up…》奇しくも米国ボストン美術館では、村上隆展が現在開催中です。『奇想の系譜』の辻惟雄先生とのコラボ展のようです。藝大では日本画を学んだ村上も奇想の系譜にあるのではないかというところでしょうか。(※下記の参考もご参照ください。)映像作品《静物》サム・テイラー=ジョンソンは、映画製作者でもあり、夫はアローン・ジョンソンです。

名古屋ボストン美術館が20193月末で閉館されることが決定したそうです。2009年『ゴーギャン展』《我々はどこから来たのか, 我々は何者か,我々はどこへ行くのか》に会いに出かけた。2012年はボストンからの里帰りと称された『日本美術の至宝展』の光琳の《松島図屏風》をお目当てに出かけ、絵巻物好きには堪らない《吉備大臣入唐絵巻》にも魅了された。

米国ボストン美術館の姉妹館としてオープンした時の高揚感が嘘のような、終幕を迎えようとしています。文化施設は、採算が取れないし、経済動向に左右されやすい。が、本家のボストン美術館の成り立ちからしても残念でならない。このように感じているのは私だけではないはず。その思いが残った展覧会でした。神戸のあとは、名古屋ボストン美術館へ巡回します。




【開催概要】ボストン美術館の至宝展 ― 東西の名品、珠玉のコレクション
・開催会場:神戸市立博物館 HPは⇒コチラから
・会  期:2017年10月28日(土)~2018年2月4日(日)
・休 日:月曜日、2017年12月29日(金)~2018年1月1日(月・祝)、1月9日(火)
ただし2018年1月8日(月・祝)は開館
・開館時間:9:30~17:30、ただし入館は閉館の30 分前まで
※土曜日は19:00まで 、※12月22日(金)、1月26日(金)は21:00 まで
・公式サイト:http://boston2017-18.jp/
・ボストン美術館公式サイト:http://www.mfa.org/

【参考】
・堀田謹吾著『名品流転 ボストン美術館の「日本」』2001 日本放送出版協会

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ARTが好きなのか?美術館に行くのが好きなのかしら? 行きかけると拍車がかかって、前のめりになっている今日この頃かもしれません。 「知らない」「???」が増えるばかりです。
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MUSEUMコンシェルジュになりたいが、ARTには全くの素人。山間部育ち、専攻は「東洋史」、ただただ美術館へお出かけするのが大好きな私が、阪神間の美術展、アート関連施設やアートイベントなどについてアートへの思いを綴ります。つたない文章ですが、読んでくださる方々が、お出かけしてみようかなと思ってくださるきっかけになればと思っております。

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