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デカダンな香りが漂う時代、京都画壇に誕生した日本画家たちとは?岡本神草の時代展

デカダンな香りが漂う時代、京都画壇に誕生した日本画家たちとは?岡本神草の時代展

たびたび京都国立近代美術館(以下:京近美)の4階コレクションギャラリーでお目にかかっている岡本神宗とその時代の作家たちの作品です。コレクション展は写真撮影OKでもなかなかそちらにカメラが向かないのです。初夏にあべのハルカス美術館で開催された「北野恒富展」で恒富が「悪魔派」と呼ばれていた初期の作品『道行』を目にして、すぐに思い浮かんだのが京近美で観た神草の《拳を打てる三人の舞妓》でした。そう有名でない岡本神草のこの作品のインパクトの強さを物語っています。それは正面の舞妓の白い顔だったのか?妖しい指の表現だったのか?その真相が今回の展覧会で掴めるのではないかと友の会解説に参加してきました。(※内覧会ではないので作品の写真はありませんが、京近美所蔵の作品にはリンクを貼っておきますのでそちらから作品をご参照ください。)



岡本神宗は、明治27年(1894)に神戸で生まれ、大正4(1915)京都市立美術工芸学校(美工)絵画科を卒業し、京都市立絵画専門学校(絵専)へ進学します。美工卒業生らによって結成された「密栗会」に参加します。当時の写真からは、ちょっとイケメンで神戸出身ということもあってハイカラだったのかもしれません。

京近美では、1996年に大正日本画の異才一いきづく情念 甲斐庄楠音展』を開催され、20年を経て「岡本神草展」となりました。しかし、神草は、極端に筆が遅く完成した作品が少ない上に38歳で突然亡くなってしまいます。神草作品と分かっている本画と素描、下絵、日記、関連資料と神草と同時時代に生きた作家の作品を通して、神草とその時代がどのような時代であったのかを探る展覧会となっています。

明治から大正、昭和初期は、19世紀から20世紀への変革期でもありました。その時代の京都画壇の作品からは「妖しい」「エログロ」「デカダンス」などの言葉が浮かびます。

美工と絵専は兄弟校のような関係で、一緒に展覧会を開催していたようでそこへ神草も出展したようです。その時代の素描がまず紹介されています。が、やはりそれらを基にした完成作品は見つかっていないようです。馬の写生《柳陰繋馬》草稿が残っていることからしてそのためにスケッチしていたのでしょう。京都画壇として円山四条派の流れを汲み、花鳥画も描いています。

この時代一世を風靡した竹下夢二にもかぶれた様で夢二の作品を模写しています。その影響はまん丸お目目の着せ替え人形のような目の描き方に顕著に表れているように思いました。《花見小路の春宵》も草稿はあるのに本画は全く未完成です。資料として展示されている長田幹彦の京都の花街の小説も読んでいたであろう神草は、密栗会のメンバーと花街へくり出していたようです。京都に住まいて舞妓を描かない選択はなさそうですが、花街通いも舞妓や芸妓を描くモチベーションには大いになった事でしょう。1907年の文展に対して京都の若手日本画家が1918年に「国画創作協会」を結成します。

1回国画創作協会展(以下「国展」)に神草は《口紅》甲斐庄楠音《横櫛》を出展します。神草は《口紅》ももとは絵専の卒業制作として出品した作品です。その時も顔の部分が未完で出品し、それに手を加え完成した作品です。土田麦僊が押す《口紅》、村上華岳が押す《横櫛》 (※《横櫛》の出品作は後に筆が入れられたために、出品作に近いと思われる所蔵作品が展示中です) でしたが、双方譲らず、樗牛賞を受賞したのは金田和郎《水蜜桃》です。4階コレクションギャラリーに展示中ですので是非ご覧ください。これらの画が何故に新しいのか私にはさっぱりわからずお尋ねしてみると「生々しい人物像」とのお答えでした。1915年から文展では「美人画」を集めた部屋が設けられ日本独特の「美人画」というジャンルが確立していきます。しかし、これまでの「絵に描いたような」美しき日本美人とは違った女性像だったからでしょうか。《口紅》では、豪華な着物と帯の赤と黒、白い顔の舞子、鮮やかな色彩の対比が目に残ります。着物や帯に描かれた模様は盛り上げて塗られており立体的に描いています。

身八つ口からにゅっと出た手に持つ懐中鏡に私は目が留まってしまいました。これは舶来のコンパクトなのかと。Twitterでこのロゴは何でしょう?と問いかけたところ源氏香」の「初音」ではないか?と教えて頂き、京都のお香の老舗「香老舗 松栄堂」さんと京近美へお尋ねしました。双方からすぐにお返事を頂き、確かにこのマークは「源氏香」の「初音」だそうです。着物などに詳しい方ならご存知と思いますが、「源氏香模様」は、着物や帯、装飾品に使われる模様としてよくあることで、特に珍しいことではなく、展示中の作品の中にも「源氏香模様」の着物や帯があるそうです。しかし、「源氏香」中でも「初音」を描いたことに神草が意味を持たせていれば・・・ちょっと面白い。この作品からも神草が浮世絵を勉強していることも感じ取れます。舞妓の持つ懐中鏡は「紅板」かもしれないとのことですが、あの舞妓の表情からして「懐中鏡」に向かって紅を引いていると思いたい。

浮世絵のモチーフとしてはみられる《拳を打てる三人の舞妓》チラシにもなっている作品です。第1回国展の《口紅》の評判に、翌年は《拳を打てる三人の舞妓》を出品しようと制作にかかりますが、期日に間に合わず未完のまま残念。第3回国展にはと描いていた当作品ですが、案の定、筆の遅い神草は締め切りに間に合わずとったのが作品の切断です。真ん中の舞妓の半身だけを出品しました。1987年に切り取られた残りの部分が発見され、修復で67年ぶりに一つの作品となり、現在展示中の作品となっています。出品されたときの様子は窓を開けたチラシをご覧ください。随分思い切ったことをしたものです。結果は選外佳作を受賞しました。残された部分は未完のまま、翌年の第3回帝展には新たに描きなおした《拳を打てる三人の舞妓》を出品しました。切断された《拳を打てる三人の舞妓》をよく見ると、着物や帯や襟元、笄ととても細かい。これを描ききる精神力と集中力は大変なものでしょう。第3回帝展出品作は私には淡い着物の色がしっくりこず、習作のまま残った切断された作品のインパクトが強く残ります。白い顔と手、指、濃い赤の襟元。半眼の舞妓の表情は、読み取れず確かに狐の様にも見えるけれど。拳遊び(狐拳)の猟師()、狐()、庄屋()のポーズをとる舞妓たち、妖しげな指の表現に惹きよせられ、何かに化かされているのかの様相さえ漂います。法隆寺の救世観音のお顔と聞けばなるほど似ている、3人の舞妓は法隆寺の釈迦三尊像なのではないかとの説もあるそうです。ここの展示では、第2回の国展のために制作された作品と、下図など《拳を打てる三人の舞妓》が一堂に会した空間となっています。

大正9年の菊池契月《少女》が展示されています。この時代契月でさえ少女であってもうす気味悪さが漂う画を描いていたのです。それが契月や土田麦僊は大正11~12年にかけてヨーロッパを旅し、ヨーロッパの絵の写実性を目にして帰国し、彼らは古典回帰へと舵をきるようになります。それに倣うように契月に師事した神草周辺の画家たちにも変化があらわれます。ドロドロした感じが拭い去られるように揃って画風が変化していくところが面白く、それほどまでに師である契月の影響が大きかったのでしょう。

神草の《口紅》と並んで展示されていた《唄へる女》を描いていた梶原緋佐子が描いた《機織》 には驚きました。なんとすっきりした作品でしょう。

この頃の神草の描く女性像は、顎をあげて上向きの表情が多くみられます。神草の画風も徐々に変わりつつありました。《婦女遊戯》鞠と紙風船で遊ぶ二人の舞妓を描いています。しかし、この作品も何度も中断し、直前には松茸中毒に罹り、友達の協力と契月のアドバイスで何とか第13回帝展審査会場へ搬入され、入選を果たした作品です。これまでの作品とは違って落ち着いた美しさと柔らかさが感じられる作品ですが、鞠打つ舞妓はやっぱり身八つ口から白い腕をだしていて、この白い腕に神草は女性の色香を感じていたのかしら。

先にブログに書いた「有元利夫」38歳で亡くなりましたが、彼は早くに自分の画風を確立しそれを追究する過程だったように感じています。しかし、神草はまだまだどう変化していくのかと思わずにはいられませんでした。神草の回りに居た画家たちが菊池契月と出会うことにより、契月の画風の変化に従って変わっていき、神草はその入り口でパタンと戸が下りてしまった様に感じました。

展覧会の最後に神草の妻であった若松緑《壺を持つ女》がありました。同じ菊池塾の後輩であった緑との短い結婚生活です。神草のアトリエの建設や作画を支えたのも妻緑の実家若松家だそうです。神草が急逝して半年後に病弱だった妻緑も若くして亡くなってしまいます。京都市立芸術大学に残された《口紅》だけが神草の作品でしたが、子供のいなかった神草の遺作を若松家が引き取り、その後義妹の絲屋高子さんが全ての資料も引き受けて大切に保管されていたことが展覧会に繋がったそうです。これは星野画廊さんも言及されているところです。埋もれてしまう作品が私たちの前に在ることに感謝です。

※掲載した菊池契月《朱唇》は、以前コレクションギャラリーで撮影したものです。

神草も目にしたであろう菊池契月《蓮華》1917年 コレクションギャラリーに展示中です。


昔々の夢二と契月の図録を我が家で発掘しました。


【開催概要】岡本神草の時代展
・開催会場:京都国立近代美術館 展覧会HPコチラから
・会  期:2017111日~1210
・開館時間:午前930分~午後5時、ただし金曜、土曜は午後8時まで開館
(入館は閉館の30分前まで)
・夜間割引あります!⇒ 会期中、金曜、土曜日の夜間開館日の午後5時以降

【参考】
・作品リストPDFは⇒コチラから
・第4回コレクション展>「岡本神草の時代」展によせて⇒コチラから
・展示作品の多くが京都国立近代美術館所蔵のものです。所蔵作品総合目録検索システム⇒コチラから

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ARTが好きなのか?美術館に行くのが好きなのかしら? 行きかけると拍車がかかって、前のめりになっている今日この頃かもしれません。 「知らない」「???」が増えるばかりです。
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MUSEUMコンシェルジュになりたいが、ARTには全くの素人。山間部育ち、専攻は「東洋史」、ただただ美術館へお出かけするのが大好きな私が、阪神間の美術展、アート関連施設やアートイベントなどについてアートへの思いを綴ります。つたない文章ですが、読んでくださる方々が、お出かけしてみようかなと思ってくださるきっかけになればと思っております。

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