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もうお出かけになりましたか『怖い絵』展@兵庫県立美術館へ。

もうお出かけになりましたか『怖い絵』展@兵庫県立美術館へ。

この夏の展覧会、みなさんはどこへお出かけになりましたか。
内覧会に参加させて頂いて、会う人ごとに「『怖い絵』展 面白い!」とお話ししました。展覧会の切り口が面白く、コンセプトも分かり易い、日頃美術館へお出かけしない人でも行ってみようとなりますね。

会期半ばの819日で来場者10万人を突破だそうです。10万人目は11歳の少年で、ご家族で来館され、美術館のFacebookによれば『ウィリアム・ホガースの「残酷の4段階」という版画が「残酷で印象に残った」』とのことで、自分の目で心でしっかりと観ておられると感心しきりです。

中野京子先生のベストセラー『怖い絵』、私もこのシリーズと中野京子先生のファンです。絵画そのものから読み取りたいと話される方もいますが、中野先生は「塗られたその色にも意味がある」と語っておられます。そして絵画の背景を知るとより面白いのです。キャプションに引っぱられたくなく、純粋に絵画と対峙したいという方も、最初は絵をしっかり観て自分なりに受け止めてからキャプションを読んでみると別の見方が生まれるかもしれません。今回の展覧会は、面倒でも解説を読んで回ってみましょう。それが面倒な方には「音声ガイド」がお勧めです。中野先生曰く「怖さは想像の友」。確かに、「怖い」という感情は、勝手に「想像」を掻き立てます。「怖い」という視点から切り取った展覧会とは?


ARTことはじめ」では、すでに たねもーさんがブログで丁寧に紹介されていますので、出来るだけ作品が重ならないように印象に残った作品をご紹介したいと思います。

展覧会は「神話と聖書」「悪魔、地獄、怪物」、「異界と幻視」、「現実」、「崇高の風景」、「歴史」6つの章からなり、それぞれをキーワードに作品がまとまっています。

西洋はキリスト教とギリシア神話が分かってないとイマイチ理解できないのが正直なところです。蓑館長は、「ヨーロッパの香りがする展覧会」とお話しされております。



ハーバード・ジェイムズ・ドレイバー《オデュッセウスとセイレーン》1909 88.9×11.05㎝リーズ美術館              ジョン・ウイリアム・ウォーターハウス《オデュッセウスに杯を差し出すキルケー》1891 148.0×92.0㎝オールダム美術館



 

はずせないホメロスのオデュッセウスのお話。左手の作品は「セイレーン」歌声で海の男を惑わすお話です。ローレライのお話もライン河ではあるけれど、神話や伝説は世界各地でなぜか似ている。ハーバード・ジェイムズ・ドレイバー《オデュッセウスとセイレーン》危ないと知っていても美しい歌声は聞いてみたいという誘惑に・・・船を漕ぐ男たちは耳栓をしてセイレーンの歌声は聞こえないが、英雄オデュッセウスは自分をマストに縛り付けても聞いてみたかったセイレーンの歌声♪ 歌声を耳にして半狂乱になり海に飛び込もうと身をよじるオデュッセウスです。セイレーンよりもそんな男の浅ましき心が怖いかも。「人魚」の形態が私には昔っから気持ちが悪い。今回は展示されていないが漱石も観たというウォーターハウスの《人魚》。今回の展覧会をみて思い出すのは夏目漱石を切り口として話題になった『夏目漱石の美術世界展です。ラファエル前派の毒々しくも写実的な描写は、世紀末も相まって「ファムファタール」女性の魔性も表しているかのようでなんだかゾクゾクしますね。

「セイレーン」を主題にしたもう一つの作品が、ギュスターヴ=アドルフ・モッサ《飽食のセイレーン》ぎょっとします。半人半鳥のセイレーン、毛皮を羽織るように大きな羽をもち、ぱっちりと開いたお目目をした童顔のセイレーンの足元は猛禽類の大きな足なのです。たった今人間を食したばかりなのか、口からは血が・・・これが“モッサ”?最近見たような気がするのですが、インパクトありすぎて記憶に残っているのか?この絵が。澁澤龍彦の何かで見たような気がするのです。”澁澤好み”ではないでしょうか?展覧会ではもう1点モッサの作品があります。ギュスターヴ=アドルフ・モッサ《彼女》衝撃的な作品です。彼女?顔が童顔で体がグラマーな女性に弱い?「君子危うきに近寄ってるやん!!」彼女が座っているのは山となった男たちの屍です。この作品を見てすぐに思い浮かびますね。会田誠《ジューサーミキサー》会田さんモッサをご覧になっていましたね、きっと。ちょっと夢に見そうなほど気持ちの悪さが残るモッサです。モッサの気持ち悪さに比べれば、ムンクの吸血鬼なんて何でもない。『怖い絵 』展を話題に会話している若い女子が「やばい絵」と言っているのを耳にし「えっ!」と思いましたが、モッサは確かに「怖い」より「やばい」かもしれない。



オーブリー・ビアズリー《オーブリー・ビアズリーによるサロメのための挿絵(ポートフォーリオ) 踊り手の褒美》1894ラインブロック・紙34.8×27.2㎝個人蔵



2章には私が大好きなビアズリーもありました。《オーブリー・ビアズリーによるサロメのための挿絵(ポートフォーリオ)》。画面からビアズリー特有の緊張感が伝わります。ビアズリー自身が絵画となった作品もありました。チャールズ・シムズ《ワインをたらふく飲む僕と君にこれらが何だというのだ》。この作品の背景には、ビアズリーが挿絵を描いていたオスカーワイルドのスキャンダルです。この若い男性が、ビアズリーと知ると複雑で、最近読んだ原田マハさんの『サロメ』が過ります。



チャールズ・シムズ《ワインをたらふく飲む僕と君にこれらが何だというのだ》1895 86.4×119.4㎝リーズ美術館



 

ヘンリー・フューズリの作品が3点もあるのですが、なんといっても《夢魔》です。岡本学芸員もどうしても入れたかった作品《夢魔》デトロイト美術館の作品ではないけれど、ヴァッサー大学、フランシス・リーマン・ロブ・アートセンターの作品が展示され、その関連作品も展示されています。ちょっと昔NHKの『額縁をくぐって物語の中へ』見て強く印象に残っている作品です。寝台の若き女性の上に座りこちらを向く異形の生き物とカーテンから顔を覗かせる馬の光る眼が異様で、妙に記憶に残っています。映画ケン・ラッセル『ゴシック』を思い出す方もいるかもしれません。DVDのカバーは、まさにこの《夢魔》そのままです。



マックス・クリンガー《死の島(ベックリンの原画による)》1890エッチング・アクアチント・紙41.5×69.5㎝ 高知県立美術館



 

マックス・クリンガー《死の島(ベックリンの原画による)ベックリンの《死の島》を上記の『額縁をくぐって物語の中へ』でも見ましたが、思うのは福永武彦の『死の島』。今回その本をネットでみると装丁はムンクなのです。何故なのだろう?と。福永武彦が大好きだった頃を少し苦く思い出します。

ことかように「怖い」絵は、小説や映画の題材とも繋がっているのです。



ウォルター・リチャード・シッカート《切り裂きジャックの寝室》1906-07油彩カンヴァス 50.8×40.7㎝マンチェスター美術館



中野先生がはずせないとおっしゃった作品ウォルター・リチャード・シッカート《切り裂きジャックの寝室》この作品、タイトルは衝撃的ですが、この作品の背景を知らなければどうということもない作品で、素通りしてしまうかも。シッカートの「切り裂きジャック」への執着は並々ではなく、実は彼自身が「切り裂きジャック」だったのではないかとも・・おぉ怖いよ。

 

ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》1833油彩カンヴァス251.0×302.0㎝ロンドン・ナショナルギャラリー



最後にどうしても触れないわけにいかない今回のメインビジュアル、ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》。メインビジュアルとなっているのであちこちで目にしていても最後の展示室に足を踏み入れた途端に飛び込んでくるこの大きな作品に驚愕します。この作品自体も数奇な運命を辿って今神戸に地でお目見えしています。ジェーン・グレイの純白に輝くドレスが身の潔白を象徴しているかのようです。自らの首を置く台を捜す白い手の指には指輪、爪は桜色。イギリス王家の歴史には闇が・・・イギリス国教会成立の背景を見てもお分かりの様に。作品の前に立つ我々もその場に引き込まれ、その場に立ち会っているかの如く・・・。

「怖い絵」という視点から作品のリスト作りが始まりました。作品選びでピックアップされたのは、日本以外ならイギリスとフランスの美術館所蔵がほとんどです。あっちもこっちもの所蔵作品を借りたりすることはとっても大変なことなのだと当たり前のことでしたのに、学芸員さんにお聞きして初めて気づいた次第です。この展覧会が始まるまでに5年もの時間を要しています、展覧会を開催するということはそういうことなのですね。美術館の「芸術の館 友の会」会報誌に担当学芸員の岡本さんは「悪戦苦闘しながら約80点の作品を集め」と書かれています。作品を絞り込んで「これは、是非入れたい!」との作品も様々な事情から借りることが出来なかった作品も当然あったようです。会期折り返しで10万人達成は大成功ですね。蓑館長は常々「入る展覧会を!」と話されています。前回の『ベルギー奇想の系譜』展と今回共に巡回は神戸から始まりました。さぁ、今後はどんな展覧会で私たちをワクワクさせてくれるのでしょうか。期待しています。

同時開催、コレクション展『県美プレミアム』もお勧めです。

『みなと物語』神戸開港150年にあたる今年、「港」にちなんだ所蔵品が展示され、さわやかな海からの風を感じてください。

兵庫県美ならではの触っても感じるART青木千絵展 漆黒の身体 美術の中のかたち-手で見るかたち』「漆」特有の質感、ツルツル?すべすべ?を感じたい。
  • 【開催概要】『怖い絵展』
  • ・会場:兵庫県立美術館 HPhttp://www.artm.pref.hyogo.jp/index.html
  • ・会期:2017722()918(日・祝)
  • ・開館時間:午前10時~午後6時(金・土曜日は午後8時まで)
    • 入場は閉館の30分前まで
  • ・関連イベント等詳細は⇒コチラ ・割引クーポンは⇒コチラ
 
【参考】
『芸術新潮』8月号>「怖い絵」展ができるまでの本当にあった怖い話

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ARTが好きなのか?美術館に行くのが好きなのかしら? 行きかけると拍車がかかって、前のめりになっている今日この頃かもしれません。 「知らない」「???」が増えるばかりです。
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MUSEUMコンシェルジュになりたいが、ARTには全くの素人。山間部育ち、専攻は「東洋史」、ただただ美術館へお出かけするのが大好きな私が、阪神間の美術展、アート関連施設やアートイベントなどについてアートへの思いを綴ります。つたない文章ですが、読んでくださる方々が、お出かけしてみようかなと思ってくださるきっかけになればと思っております。

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