ライターブログトップへ

この夏に会いたい絵 No.1 ブリューゲルの《バベルの塔》@国立国際美術館

この夏に会いたい絵 No.1 ブリューゲルの《バベルの塔》@国立国際美術館

『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-』が国立国際美術館で始まりました。

タイトルの中のブリューゲルとボスの作品は、つい最近まで兵庫県立美術館で開催されていた『ベルギー奇想の系譜』展でも展示されていましたが、今回の展覧会はすべてオランダのロッテルダムにある“ボイマンス美術館”の所蔵品によって構成されています。

ベルギー奇想の系譜』展は、ベルギーの絵画の歴史500年を追うものであったのに対して、今回の展覧会は、16世紀のネーデルラントの絵画に焦点が当てられています。「ネーデルラント」とは、現在ベネルクス3(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)辺りです。

16世紀のヨーロッパといえば、イタリアでルネサンスが花咲いた頃で、新航路が発見され、東方貿易の中心が北イタリアの諸都市から大西洋沿岸へ移り、ヨーロッパ経済の中心がリスボンとアントワープになる時代背景です。

「バベルの塔」は、旧約聖書の創成期にある有名なお話で、多くの画家がこの主題を描いてきました。ブリューゲルは、3点の「バベルの塔」を描き、現在確認されているのは、ウィーン美術史美術館と今回のボイマンス美術館の2点です。

ウィーン美術史美術館の《バベルの塔》は、1563年の年記があり、114×155㎝、ボイマンス美術館の《バベルの塔》は、年記はないが、晩年の1568年以降の作品で、59.9×74.6、大きさは縦横ともウィーンの半分です。作品の大きさから前者を「大バベル」、後者を「小バベル」とも呼ばれています。

24年ぶりの来日を機に現在の技術を駆使して「バベルの塔」の解明が行われました。「小バベルの塔」には何が描かれているのか?

あの画面に1400人もの人物が描かれていました。ボイマンス美術館長のお話によれば、今まで何人の人物が描かれているか数えようという発想がなかったようなのです。また、漫画家の大友克洋さんがバベルの内部を描いた「Inside Babel」や「小バベルの塔」が動画になって紹介されています。大友さんの「Inside Babel」 は、もはや2次元の世界でなく、人が生活している場でした。動画では工人たちが働き、クレーンが動いています。

「小バベルの塔」を初めて目にすると、作品のサイズに驚かれるかもしれません。人物は米粒にお経を書く感覚です。ネーデルラントつまり低地の港町に聳え立つ「バベルの塔」、下層階ではすでにそこで生活が営まれ、建設中の上層部は、足場が組まれレンガの色も鮮やかで、塔の建設の時間の経過を物語ります。水平線が低く背景の海や空に比して塔の輪郭線がくっきりし、塔の上層部がその新しいレンガの色もあってか一層際立っているように感じます。近づく暗い雲は何かを暗示しているのでしょうか。

肉眼では、細部を見て取ることは難しいのではないでしょうか。「小バベルの塔」の各部分が拡大されてパネルで解説されているので、現在の私たちは見比べることができます。バベルの塔では、一人一人が丁寧に描かれ、塔の周辺や背景の街も、レンガを焼く窯、ブリューゲルが結婚式をあげた教会を模した建物など、徹底的に事細かに描きこんでいます。

ネーデルラントでは、ブリューゲル以前から主題の背景にパノラマ風景を描く伝統があり、それをブリューゲルも継承して描いたわけです。

実際の作品を見る際には「単眼鏡」をお持ちになった方がいいでしょう。

ブリューゲルが10代から修業をしたアントウェルペン(アントワープ)は、国際貿易都市で当時は建設ラッシュだったそうです。大型船が入港する風景を目にし、教会や市庁舎などの高層建築の現場も実際に目にしていました。ボイマンス美術館のあるロッテルダムは現在も多言語都市だそうですが、16世紀中頃の貿易都市アントウェルペンも多民族都市で多言語対訳聖書が出版されていたそうです。

私は、死の前年ともいわれる年に何故ブリューゲルは彼にとっては3番目となるこの「バベルの塔」を描こうとしたのだろうか?それも普通の目では判別出来ない程緻密に描こうとしたのだろうと不思議に思いました。また、ブリューゲルはどこから眺めた視点でこの作品を描いているのだろうとも思いました。マクロとミクロの目を持つブリューゲル」だそうです。

ブリューゲルは、自分の生きた時代のネーデルラントの都市を記録しておきたかったのではないでしょうか。「バベルの塔」の建設は、「人間の奢りと神の戒め」がテーマですが、バベルの塔で働く人々やここに生活する人々に「奢りや戒め」でなく、「愛」を感じてしまいます。

森洋子先生は、著書の中で「この作品の二重性」を指摘されています。ご紹介しておきましょう。「表象の世界において最もユートピア的な「バベルの塔」を可視化しようとした。だがそれは神の目には最も空しい人間の虚栄、傲慢、不遜と捉えられ、人間は懲罰を受ける。最高の「バベルの塔」が最高の「教訓」の寓意を生み出す二重性です。」

ヒエロニムス・ボス (1450-1516) が描いた現存する油彩画は25点といわれています、そのうちの2点、幼いキリストを背負って川を渡る伝説の巨人《聖クリストフォロス》と《放浪者(行商人)》が展示されています。

ボスは、生前中から著名な画家でした。その死後16世紀中期のヨーロッパは、宗教改革の禍の中にあり、ネーデルラントの新教徒は統治者スペインに弾圧を受け、不穏な空気が漂い不安や矛盾を抱えていた時代でもあったのです。そこで再び奇怪な創造物が躍動するボスの作品が脚光を浴び、ボスリバイバルが起こりました。ブリューゲルは「第二のボス」として人気を博したのです。上記のボスの作品やブリューゲルの版画作品にも、様々なモチーフが描きこまれておりじっくり見ないと見落としてしまいます。私も「あれっ?そんなのあったかしら?」ということで、もう一度確かめに行かなければ。

ネーデルラント絵画のポイントは、①小さい:大きな教会や王宮に飾られてたものでなく市民がスポンサーで、市民の家に飾る絵であったからです。②フレスコ画やテンペラ画でなく、油彩が発達し、色が鮮やかで、細密描写が可能になりました。③宗教画っぽくなく、聖母像も身近な「授乳の聖母」などを描き、日常生活や風景を描く風景画や風俗画や静物画16世紀は諺の黄金時代だそうで寓意画も発達しました。

ディーリク・バウツ《キリストの頭部》私にはワッキーにもみえてしまうキリストの顔ですが、彼の描くキリスト像は後の手本となったそうです。髭は11本描かれ、襟ぐりの宝石の透明感のある色彩に驚きます。

同様に、枝葉の刺繡の画家《聖カタリナ》《聖バルバラ》それぞれの持物で描かれた人物が分かるらしい。刺繍を想起させる特徴的な画法から「枝葉の刺繡の画家」と呼ばれています。同時代のクラーナハを思い出させる、精緻な描写に目が留まりました。

枝葉の刺繍の画家《聖カタリナ》《聖バルバラ》



ボイマンス美術館所蔵《バベルの塔》は、これまで3度しか国外に出ていない(なぜか来日は今回で2度目)、関西では初登場の作品です。ボイマンス美術館の本館の改修と新館(パブリック・アート・デボ)の建設に伴って貸し出されることとなりました。また、今回展示されている油彩画はすべて板に描かれていて、カンバスに描かれた作品に比べて湿度や温度の影響を受けやすく海外への輸送展示が難しい作品です。それが高温多湿の日本の夏に展示されることになりました。

さぁ、ブリューゲルの「バベルの塔」の世界に分け入ってみましょう。

※掲載写真は、許可を得て撮影したものです。



【開催概要】
・展覧会名:ボイマンス美術館所蔵
ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-
・会場:国立国際美術館
・期間:2017718日(火)〜1015日(()
・開館時間:10時〜17時
ただし、金曜日と土曜日は21時まで 開館しています
※入館は閉館の30分前までです。
・休館日:月曜日
※ただし、9/18(月・祝)10/9(月・祝)は開館
・公式サイト:http://babel2017.jp/
・バベルの塔 待ち時間お知らせTwitterアカウント:
 
夏休み向け関連イベントも目白押しです。詳しくは⇒こちら ☆中学生以下観覧料無料
・「バベルの塔」展 1万個の紙コップで作ろう!巨大な塔!7/22(()
・「バベルの塔」展 子ども向けミニ・レクチャー7/29() 7/30()8/23()8/24()
・「バベルの塔」展 記念講演会「ブリューゲル《バベルの塔》の衝撃 マクロとミクロの融合」
・なつやすみびじゅつあー「パタパタ・モンスター」8/26()8/27()

【参考】

licoluise の紹介

ARTが好きなのか?美術館に行くのが好きなのかしら? 行きかけると拍車がかかって、前のめりになっている今日この頃かもしれません。 「知らない」「???」が増えるばかりです。
カテゴリー: +キッズ, +展覧会   タグ: , , , , , , , , , , , , ,   この投稿のパーマリンク
この記事を書いているのは
licoluise

licoluise

MUSEUMコンシェルジュになりたいが、ARTには全くの素人。山間部育ち、専攻は「東洋史」、ただただ美術館へお出かけするのが大好きな私が、阪神間の美術展、アート関連施設やアートイベントなどについてアートへの思いを綴ります。つたない文章ですが、読んでくださる方々が、お出かけしてみようかなと思ってくださるきっかけになればと思っております。

コメントは受け付けていません。