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「保存修復グループってどんなところ?」@兵庫県立美術館 友の会

「保存修復グループってどんなところ?」@兵庫県立美術館 友の会

美術館のバックヤードは、どんなふうになっていて、そこで学芸員の方は、どんなふうにお仕事をしているのでしょう。兵庫県立美術館「芸術の館 友の会」で、美術館のバックヤード見学に参加してきました。

兵庫県立美術館には、「保存修復グループ」があり、保存修復専門の学芸員がお二人、非常勤の方がお一人、インターンの方がお一人在籍されています。兵庫県立美術館の所蔵品は、前身の兵庫県立近代美術館の所蔵を引き継ぎ約9000点あるそうです。現「兵庫県立美術館」が日本でも数少ない「保存修復グループ」が設けられたことは、平成7年の神戸の震災で「兵庫県立近代美術館」が大きな被害を受けたことが関係しています。専任のお二人の学芸員は、それぞれ「油絵、現代アート」 を主に専門にする相澤邦彦学芸員と「素描や版画など支持体が紙の作品」を主に専門にされる横田直子学芸員が在籍され、お二人は共に「修復工房」から現職になられたという事でした。お二人は、現場で一緒に仕事に従事しながら、後進の育成指導にもあたっておられます。

「保存修復グループ」と言っても、お仕事は多岐にわたり、美術館の環境管理、展示に関わるお仕事、今回の様な見学会の対応、友の会会誌等へ文章を書く、等々、専門のお部屋で修復のお仕事に携わっておられるのは仕事量の5割にも満たないかもしれません。展示と保存修復の両立で、多くの資料を管理保存していくという立場から「マス・コンサベーション」とう言葉を使われていました。

最初に説明を受けたのは、「トラックヤード」、美術作品の出入りです。美術作品の貸し借りで美術作品が搬入搬出する所です。美術作品の移動がしやすいような設計、つまり床を同じ高さにすることが出来る設計になっています。

次の空間へは、電子錠で区切られ、入室できる人が限られ、セキュリティの確保と空気の動きで中の環境が大きく変化しないようになっています。ここには収蔵庫と仮置き室がありました。仮置き室は、搬入搬出まで待機、寄贈品の事務処理終了までの一時保管室です。収蔵庫は、本来は素材ごとにあるのが理想だそうですが、素材別に分けて整理保管され、2階が紙素材の収蔵庫となっています。特に収蔵庫の扉はとても丈夫に作られているので2011年の東日本大震災の時も東北地方のある博物館では、収蔵庫にあった作品は津波による被害からある程度守られたそうです。が、その博物館で勤務されていた方々は、犠牲となられました。いざというときに美術館の収蔵庫が一時的なシェルターになる役目もあるかもしれないと思いました。

美術館で使う台車や大きさ別に置かれた照明の横を通って、いよいよ「保存修復グループ」の作業室がある空間へ。修復学芸員それぞれ(紙作品と油彩の)作業部屋の他、X線室とその作業室、修復事務室、額の木などを工作する部屋「木工室」があります。もう一つは「燻蒸室」、嘗ては展示室や収蔵庫だけでなく、全館を燻蒸することが一般的だった時代もあるそうですが、、現在は環境や健康への負荷を考慮し、お部屋の名称は「燻蒸室」ですが、当初から燻蒸の為の設備も設けることなく、他の方法で有害生物対策を行い「燻蒸室」としては使われたことはないそうです。

ここでは、まず美術館での環境管理のお話を伺いました。温湿度や大気環境のデータを様々な計測器で監視されています。温度は、22℃程度、湿度はカビが発生しない60%以下を維持。展示室では、照明や季節や天候、人の流れで温湿度等が変化するため、定期的にデータを集めて、照明や採光量も調節されています。作品にとって最適な温度であっても、観覧者にとって寒かったり、暑かったりが生じる場合もあるので、ヒトとモノでちょうどいいところで折り合いをつけて調整されているそうです。確かに、夏場に美術館で寒い思いをしたことがある私は、夏冬共に美術館へ出かけるときは、羽織れるショールの様なものをバックに入れて調節しています。虫の侵入もすべてを防ぐことは出来ないので、「バグトラップ」(ごきぶりほいほいの様なもの)を各所に置いて、経過観察されています。「IPM」という農業用語があり、「人間と有害生物との持続的な棲み分けをめざし、統合的に管理」されているそうです。環境管理の記録は、美術作品を他から借りて展示する場合に、こんな環境で展示しています(していました)の証明にもなります。そういえば、夏の『デトロイト美術館展』@大阪市立美術館に伺った時も、デトロイトから温湿度、照明の指定がきっちりあったと担当学芸員さんから伺いました。欧米は、比較的寒くて乾燥しているため、日本の様に高温多湿の環境での展示では気を遣われる点かもしれません。兵庫県立美術館は、立地が海の入り江に面しており、ロケーションは抜群ですが、塩害が心配されるところです。屋外展示物は、定期的な洗浄やワックスがけなどを行っておられるそうです。大きな台風が襲来した過去には台風通過後数日で錆が目立つようになってしまった屋外展示もあったそうです。

X線での調査は、作品の構造や内部の様子を見たり、どんなふうに作家が描いてきたかを知ったりとなくてはならないものです。X線の写真も見せて頂き、X線室にも入らせて頂きました。X線を操作するにあたっては、資格を取得されたそうです。その後2班に分かれて各学芸員さんにご専門の修復のお話を伺いました。

横田学芸員からは、「紙」ベースの作品に一番悪さをするのは「酸」という事を伺いました。作品を挾む「マット紙」、70年代までは酸性のマット紙が一般的で、それに版画などを挟み、四隅を三角コーナーで固定していたそうです。酸性であったために劣化や変色などが生じ、三角コーナーを固定するために使われたセロハンテープは茶色に変色するなど作品への負荷も大きかったようです。現在ではコットン100%のマット紙を使用されています。

@県美プレミアム



兵庫県立美術館で、紙作品つまり「版画」や「写真」などの作品が展示されている場合、シリーズものなどは、鑑賞の際に違和感がないように、同じ種類のもの、同じ色味、質感のマットが使われているそうです。そんな心配りにも私たちは気付かず、当たり前の様に観ているかもしれません。作品を固定する時に、四隅を固定すると湿度変化による紙の変形が内側に向き、画面に波打ちなどの歪みが生じやすいなど作品への負荷が大きいので、借用作品で特に指定がない限り、上部2点で吊るして展示する方法を取られているそうです。よって上下が間違わないように展示の際は細心の注意が必要とのことです。

また、修復に使われる和紙のお話を伺いました。文化遺産にも登録された「和紙」、和紙は酸性でなく、安定しており、日本古来の表具の技術も使いながら作業されることもあるそうです。様々な和紙を実際に見せて頂きました。兵庫県内にも和紙の産地があり、多可町のコウゾ紙「杉原和紙西宮市名塩のガンピ紙「名塩和紙」、名塩和紙には、その地の泥が入っているために泥の色をしていました。長谷川潔の版画作品の表面を実際に顕微鏡でのぞかせて頂きました。メゾチントという長谷川の版画の表面は、複雑な様相を呈していて、言葉で表現するのは難しいのですが、長谷川作品の明暗の対比を垣間見たような、ちょっと感動でした。長谷川潔の作品を二点並べ、表面のガラスの違いも体験しました。観る側が写り込むストレスを軽減する低反射のガラスのへ順次切り替えていかれるそうです。クリーニング屋さんなどでも使っている「サクションテーブル」で、下から強力に吸引することで溶剤が広がるのを抑え、染み抜きをする作業も見せて頂きました。

暫しの休憩の後、油彩、現代アートを専門とされている相澤学芸員の作業室へ。作業室には大きな白髪一雄の作品が掛かっていました。参加者はアートがお好きな方ばかりで、間近でみる白髪の作品に引き寄せられます。大きな白髪の作品は、全体に白っぽくなっていたものをオリジナルな状態へと修復がほぼ終了した所だそうです。その横には、X線写真を見せて頂いた「ブタのはく製」の作品が、一方の耳に大きく穴が開いたらしく、耳を取ってしまって中の物を搔き出して修復中、勿論取り出された中身も保存されています。何が原因でそうなったかを調査、あるいは先でそれが分かるかもしれないということで作業の1つ1つが記録として残されます。このブタのはく製を作った業者さんは今も存在していますが、美術品としてのはく製を修復するという事はほとんどないらしく、修復に際して、国内はもとより海外まで問い合わされたそうです。美術館でこの「豚さんのはく製」作品と再会する日が楽しみです。「あぁ、あの時のブタさんだ!」ときっと思い出します。

「彫刻大集合」@県美プレミアム



現代アートでは、使われている材料がなんでもあり、工業製品などを使用する“ミクストメディア”と呼ばれる作品が多く、映像作品なども記録媒体が次々変化していく中、その時代の物をその時代に大量に買って残しておくことも必要になってきたという事です。例えば、つい最近まで使っていいたブラウン管テレビやVHSさえも今では手に入りにくいものとなっています。現代アートの展示も、その場の作品、「インスタレーション」と呼ばれるものも多く、21美での大量の蚕を飼育して、蚕の吐く糸で巨大なアートに仕上げていくや土を展示室へ大量に運び込むなどなど、展示環境管理も難しい状況になっています。国府理さんが制作中に急死するということもありましたが、修復作業の溶剤などにガスを発生するものもあり、“換気“など健康への問題も生じてきます。オリジナルな状態へ近づけるために、強い薬品を使用すると作品自体に影響を与えることもあり、元の作品を傷めない事を一番に作業が進められます。昔の宮大工さんが独自の大工道具を作り出したように、作業を進めるに当たって保存修復に携わる方それぞれがオリジナルな道具がありそうです。

最後に文化財レスキューのお話を伺いました。東日本大震災の時はまだ関東にお住まいだった相澤学芸員は、被災地で文化財レスキューにも携わられたそうです。多くの方が亡くなり、被災者の方の状況もまだ厳しい中での文化財レスキューのお仕事に葛藤もあったとのお話でした。文化財レスキューで次の世代へ繋げることの出来た作品たちは、本来の作品の上に、この大きな災害を乗り越えた作品という別の意味も持つこととなったと。震災の中でたまたま生まれた子供たちは、あの時に生まれた子供という事で何かを背負って生まれてきた様な・・・という事と似ています。文化財レスキューのなかで目にされたその地の名もない作家の町のお祭りを描いた作品との出会いのお話も伺いました。被災地での活動の貴重なお話を聞く機会を得ました。

最後は質疑応答、参加者の皆さんは興味津々で質問も尽きませんでした。

最近、私的にも、何故か「保存修復」を考える機会が増えているタイムリーな見学会でした。保存修復と言えばの「正倉院宝物年に一度「曝涼」期にその一部にお目にかかるのですが、これはまさに長い歳月をかけて保存修復して現在に伝えられたものです。長く大切に守られ伝えられてきたことが愛おしくさえあります。

日本では、お軸や屏風などを扱う「表具師」が一般的ですが、「鳥獣戯画展」@京都/東京国立博物館 の時でしたかしら、私も初めて「装潢師」という職業を知りました。今年に入り静かに「あの展覧会いいね」とうわさが広まり、『平成28年度特別展 「日本の表装-紙と絹の文化を支える』@京都大学総合資料館 へも出かけて、必ずや劣化が進む「紙や絹」の修復保存を手掛ける装潢師」というお仕事の展示を観てきました。共同開催の『日本の表装-掛軸の歴史と装い@京都文化博物館 横田学芸員がこの展覧会の事に触れられました。江戸時代、禁教の中信仰を守る中で普通の人の手が加えられたキリスト教の関係のものは、その時代背景を考えれば、加えられたそのことにも歴史的意味が加わり、オリジナルだけを残すという判断にも難しいところがあるという事でした。とても興味深いお話と、私も後日早速この展覧会へも行ってきました。

相澤学芸員からは、3年の修復を終え、現在「クラ-ナハ展」@国立国際美術館に展示されている《ホロフェルネスの首を持つユディット》のお話もでました。かの妖気漂う作品も、修復家の方とご一緒すると「ここが修復のポイント」とか他の興味も沸きそうです。

「プロフェッショナル仕事の流儀」で、日本における西洋画部門での絵画修復家として「岩井希久子」さんのお仕事の様子が映像で流れたり、「ぶらぶら美術館博物館」でフェルメール作品の修復個所の説明をされたりと、絵画修復家という職業が私たちにちょっと近しく感じられるようになってきたのではかと思います。修復家のお話で共通しているのは、将来的にもっと修復技術が発達するかもしれないので、今できる事、オリジナルは出来る限り残し、次の世代へ文化財を繋いでいく役割を今の時代に果たしていらっしゃる。今行っている修復は、全て記録に残し、どこをどのように修復したかを伝え、次世代でもっと有効な修復が可能になった時に新しい方法が取れるような修復を心がけておられる。

とても貴重な機会を頂き、「芸術の館友の会」に感謝です。国立博物館、美術館の「友の会」の内容が新年度から変更され、公立の美術館・博物館の「友の会」の果たしていく役割も増えるのではないかと思っております。

保存修復見学後、常設展展示「彫刻大集合」がとても面白かったです。彫刻のオンパレードでした。彫刻作品の中に展示されるマイヨールの版画や田中敦子や元永定正の具体の作品、彫刻と紙作品と油彩作品+観覧者、それぞれに折り合いをつけた環境設定となっているのねと思いながら回りました。2F奥では芦屋を中心に活躍した写真家「ハナヤ勘兵衛の時代デェ!」の特別展示、マット紙が気になりながら、観て回りました。

見学会前、美術館外をぐるぐる回って、景観や屋外展示の写真を撮りました。保存修復室の写真の代わりに載せておきたいと思います。兵庫県立美術館は屋外展示を回っても面白い。
【参考】
・兵庫県立美術館HP:http://www.artm.pref.hyogo.jp/
>兵庫県立美術館の沿革でと組織:http://www.artm.pref.hyogo.jp/access/rinen/index.html
>兵庫県立美術館「芸術の館友の会」:http://www.artm.pref.hyogo.jp/member/index.html
()資料保存器材HP:https://www.hozon.co.jp/
☆☆このブログを書くにあたり、兵庫県立美術館「芸術の館友の会」事務局、横田・相澤学芸員にご協力頂きました。ここにお礼申し上げます。

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ARTが好きなのか?美術館に行くのが好きなのかしら? 行きかけると拍車がかかって、前のめりになっている今日この頃かもしれません。 「知らない」「???」が増えるばかりです。
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MUSEUMコンシェルジュになりたいが、ARTには全くの素人。山間部育ち、専攻は「東洋史」、ただただ美術館へお出かけするのが大好きな私が、阪神間の美術展、アート関連施設やアートイベントなどについてアートへの思いを綴ります。つたない文章ですが、読んでくださる方々が、お出かけしてみようかなと思ってくださるきっかけになればと思っております。

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