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神戸でしかみられない『松方コレクション展』@神戸市立博物館

神戸でしかみられない『松方コレクション展』@神戸市立博物館

松方コレクションと聞くとどうしても上野にある“国立西洋美術館”の常設を思い出します。あの常設にだけに会いに金曜日の夕方にふらっと上野によってみる事だってありました

西洋美が松方コレクションをもとに出来上がったことも一応は知ってはおりましたが、 しかし、西洋美に≪考える人≫はもとより、≪カレーの市民≫や≪地獄の門≫までもがあることに「あれっ?」って、 今回の展覧会で私は遅まきながらその経緯を知ることになりました。

松方幸次郎がいかなる人物で、「松方コレクション」はどのようにして今に至っているかについては、『松方コレクション展―松方幸次郎 夢の軌跡―』の公式HPにも詳しいのでそちらも参照ください。コチラ

松方コレクションが他のコレクターとちがっているのは、個人の趣味趣向で集められたものでないという事です。

西洋美術の“美術館”を建設するという目的の為に集められた美術品です。 松方幸次郎は、30歳の若さで川崎造船所の社長に就任し、1916年に第一次大戦下のロンドンへ”ストックボート”(貨物船の製品)を英国政府へ売り込みに行き、そこで画家フランク・ブラングィンに出会ったことが美術館構想へと発展していきます。

若い日本の画家に本物の西洋美術を見せるために美術館を建てようなどとの思いは、育った環境(明治の元勲と言われる松方正義の三男)とアメリカ留学生活が大きく影響しています。ストックボートの製造も33歳で神戸新聞社社長に就任し、第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件をいち早く知りえた立場にもありました。

一人の画家との出会い、その作品を購入したことがきっかけになり、ブラングィンに松方は美術館の設計と蒐品の選定を任せます、なんという信頼関係でしょうか。もう一人のコレクション蒐集に大きな役割を果たしたのが、パリのルクサンブール美術館長であり、1919年開館のロダン美術館の館長を兼任したレオンス・ベネディットです。

蒐集されたコレクションの特徴は?分野に偏りがない、広い視野で収集されたものであることです。家具やタペストリーなども含み、欧米の文化をそのまま日本へ移すということでした。西洋美の常設から「松方コレクション」と言えば印象派や後期印象派を中心とした絵画を思いがちですが、この広い視野で集められた多様な作品を楽しみたいと感じました。 1918年にアンリ・ヴェヴェールが蒐集した浮世絵コレクション8000点近くを松方は一括購入し(太っ腹!)、10年足らずの期間に私財70億(現在に換算すれば70億ぐらいではないかとのことでした)を投じて10000点近くを蒐集しました。驚くべきエネルギーです。現在のオークションならゴッホ1点で70億もあり得ますが、当時としてはゴッホも現代アートだったので1点としてはそれほど高額ではなかったのではないか。浮世絵8000点が散逸することなく、松方の願いが届いて帝室博物館に献納され東京国立博物館所蔵となっています。今回展示されている浮世絵は素人目にも一級品と分かるものばかりで、歌麿は“透け感”がいい!北斎は、構図は当然ですが、ベロ藍が美しいです。

美術館の名称は「共楽美術館」、建設予定地は東京麻布仙台坂(神戸も候補地であったそうですが)と決まり、ブラングィン の設計図も届き、検討会も始まっていたのに、のに、です、関東大震災、1927年の金融不況から責任を取って社長辞任、コレクションも売り立てにだされ、売り立ては7回にも及び、コレクションは解体され、散逸してしまいます。 関東大震災の翌年1924年には、奢侈税とも呼ばれる新しい関税法が施行され、書画の輸入に100%の関税がかけられることになり、ロンドンとパリに未発送の作品が残りました。ロンドンに留め置かれた作品は倉庫が火事になり焼失してしまいます。パリではロダン美術館に保管されていましたが、第2次世界大戦に突入するとドイツ軍から守るために郊外へ疎開させ、戦火を潜り抜けました。

戦後は敵国人財産としてフランス政府に接収されました。1951年のサンフランシスコ平和条約締結後、返還交渉が行われ、それらの美術品を受け入れる美術館の建設を条件として、日本政府へ「寄贈」という形で返還されることになりました。ル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館が建てられ、370点が帰ってきました。しかし、19点はそのままフランスに留まりました。

留まった19点のうち今回日本へやってきたのがロートレック《庭に座る女》とピカソ《読書をする婦人》他です。2点が並んで展示されており、なんだか誇らしげに見えてきます。今回のメイン作品ともなっているロートレック《庭に座る女》ですが、ピカソ《読書をする婦人》も凄くいいです。 売り立てに出された作品も、今や日本の有数の美術館を代表する作品となって、今回の展覧会にも出品されています。

松方コレクションは、西洋美術を偏りなく網羅していますが、風景画、人物画、風俗画が多く、宗教画、歴史画、裸体画が極端に少ないという事です。浮世絵も春画は除かれて購入したそうです。日本人の教養の為の美術館建設を慮っての事と推測され、宗教画も敬遠されたのではないかという事でした。宗教画は、描かれた内容が一般人には理解できなかったかもしれません。 松方コレクションに、何かあるとすれば、「特に海と船を題材にした作品が好きだったようで、」とあり、成程なぁと造船会社の社長ですものね。とても興味深い。

神戸市立博物館では、27年ぶりの松方コレクション展で、今回は「フランスから見た松方コレクション」というコンセプトを設定されたそうです。オルセー美術館名誉学芸員カロリーヌ・マチューさんの協力を得て、第3章に「松方コレクション形成時代のフランス絵画の名品」を設けています。美術商で目にしていたら購入したであろうという作品たちで、コローを始め静かで穏やかな印象を持つ作品が多かったです。

巡回しない神戸ならではの『松方コレクション展』になっています。 多くの作品リストの中から、これだけの作品を集めて展示する労力もさることながら、担当された学芸員さんは、やはり今回は川崎重工()のバックアップが大きかったとおっしゃっておりました。最後の章は、『松方時代の川崎造船所と神戸』です。

    【参考】
        ・『松方コレクション展-松方幸次郎 夢の軌跡-』公式HP
          ・『松方コレクション展-松方幸次郎 夢の軌跡-』facebook
            『松方コレクション展-松方幸次郎 夢の軌跡-』Twitter
              ・国立西洋美術館 常設展
                国立西洋美術館 松方コレクションについて
                  ・『火輪の海』神戸新聞社編
                    国立西洋美術館>所蔵品検索>作品検索
                      ・Googleアートプロジェクト>国立西洋美術館の所蔵作品一覧
                        ☆☆ 神戸市立美術館は居留地に位置し、近辺には素敵なカフェやレストランもあります。
                        展覧会とのタイアップメニューや半券提示でお会計が10%offもあるそうです。⇒コチラ
                         

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                        MUSEUMコンシェルジュになりたいが、ARTには全くの素人。山間部育ち、専攻は「東洋史」、ただただ美術館へお出かけするのが大好きな私が、阪神間の美術展、アート関連施設やアートイベントなどについてアートへの思いを綴ります。つたない文章ですが、読んでくださる方々が、お出かけしてみようかなと思ってくださるきっかけになればと思っております。

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